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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)100号 判決

原告

朝木明代(X1)

矢野穂積(X2)

被告

東村山市長(Y1) 市川一男

(東村山市長) 市川一男(Y2)

被告ら訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告東村山市長が、別紙記載の各納税義務者に対し、その各所有の別紙記載の各土地及び建物に係る昭和六一年度分の固定資産税及び都市計画税(税額合計一六六二万七〇〇〇円)について、その全額を免除し、かつ、それを平成三年四月三〇日までに賦課徴収しなかったことが違法であることを確認する。

2  被告市川一男は、東村山市に対し、金一六六二万七〇〇〇円及びこれに対する平成四年九月一日から右支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  右2、3項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

原告らは、東村山市の住民であり、被告市川一男(以下「被告市川」という。)は、東村山市の市長である。

2  被告東村山市長による固定資産税及び都市計画税の免除

(一) 被告東村山市長(以下「被告市長」という。)は、被告市川の後援者である別紙記載の各納税義務者に対し、これらの者の減免申請に基づき、その各所有に係る別紙記載の土地建物(以下「本件固定資産」という。)が東村山市税条例(以下「市税条例」という。)五三条一項二号に掲げる「公益のため直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」に当たるとして、これに係る昭和六一年度分の固定資産税及び都市計画税(税額合計一六六二万七〇〇〇円、以下「本件固定資産税等」という。)について、その全額を一律に免除した(以下「本件免除」という。)。

(二) 被告市長は、本件固定資産に係る納税義務者らに対し、本件固定資産税等の徴収権が時効消滅する日(法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日)の前日である平成三年四月三〇日までに、本件固定資産税等の賦課決定をしなかった。

3  本件固定資産税等を賦課しなかったことの違法性

(一) 地方税法(以下「法」という。)上、地方団体が、公益上の事由により、課税が不適当であるとして、地方税を課税しないことができるのは、法六条一項に基づく条例が定められている場合に限られる。法三六七条による固定資産税の減免は、そこに規定されている例からしても、また、法三四八条が、固定資産税を非課税とする者の範囲について、具体的に規定しているところからしても、個々の納税者の担税力が薄弱である場合に限り、適用されるべきものと解されるから、同条の規定する「その他特別の事情がある者」も、担税力が薄弱であるような事情のある者を指すものであって、公益性があるという理由から、法三四八条に規定されていない特定業種の者の固定資産税を、担税力の有無を考慮せずに一律に免除することを可能とするような条例を制定することは、右規定を根拠としては許されない。

また、固定資産税は、固定資産そのものの価値に着目して課税するものであるから、同一価値の固定資産税について、所有者によって異なる税負担を要求することは、法三六七条に規定する場合及び担税力を考慮する場合を除き、できないものというべきである。

市税条例五三条一項二号は、法三六七条を根拠としながら、公益のため直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)で、市長が必要であると認めるものにつき、担税力を考慮せず一律に所有者に対して課する固定資産税を減免するものと規定しているから、この条例の規定は、法六条一項、三六七条に反し無効である。

(二) 法三条一項が、地方税の賦課徴収等について、これを条例によって定めるべきことを規定していること及び法三四八条二項が、固定資産税を非課税とする者の範囲について具体的に規定しているところからすれば、法は、実質において非課税と同一の結果となる固定資産税の減免について、その対象とすべき者の決定をあげて市長の裁量に委ねることを許容するものではないと解される。ところが、市税条例五三条一項二号は、何が公益のため直接専用する固定資産であるかの認定を全て市長に委任しているから、法に違反し、無効である。

(三) 仮に法の解釈として、法三六七条の「その他特別の事情のある者」に、公益性のある者が含まれると解されるとしても、これを根拠として制定される条例が、右規定に適合するとされるためには、その条例において、公益性があり、特別の事情がある者に該当するとされる者について、公益性の内容が具体的に定められていなければならず、また、減免する者の担税力が薄弱であることを個別的具体的に審査する手続が規定されていなければならないが、市税条例には、そのような規定が置かれていないから、なお、法に適合するものとはいえない。

(四) 仮に、市税条例の右規定が有効であるとしても、右規定は、公益のために直接専用する固定資産につき、その所有者の担税力が薄弱である場合に限り適用されるものと解すべきである。被告市長は、本件固定資産税等の一律課税免除を決定するについて、その各所有者の担税力を全く審査しなかったから、この点において既に、右固定資産税等を賦課しなかったことは違法である。実際にも、別紙記載の各個人立幼稚園は、園児の定員が毎年概ね八〇パーセントは充足されていて、入園料、保育料等の年間収入は確保され、事業収益はあがっているほか、その施設を利用して各種塾、教室等の収益事業を行い、収益を得ている。これに加え、別紙記載の各納税義務者は、いずれも広大な土地を所有し、これを駐車場として賃貸するなどして充分な収益をあげているから、担税力が薄弱ではなく、右規定の適用を受けるべき者に当たらない。

(五) 仮に、市税条例の右規定が有効であるとしても、市長は、右規定に基づく減免申請がされた場合には、その申請者の所有する固定資産の使用実態が真に公益のために直接専用するものであるかどうかについて調査し、審査する義務があるが、本件の各減免申請については、何らそのような調査や審査を行わなかった。したがって、本件免除は、市税条例五三条一項二号に違反するものである。現に、別紙記載の各個人立幼稚園は、在籍する幼稚園児以外の小、中学生や一般成人を対象として学習塾や「おけいこごと教室」等の目的外の収益事業を行っているから、本件固定資産は、いずれも公益のために直接専用するものに当たらない。

法人立の幼稚園の場合、その行った収益事業による収益は、私立学校法より使途が限定されており(二六条一項)、その構成員である法人の役員らに分配されるようなことはないが、個人立の場合には、収益が、その経営者の個人的な所得になることについて、何ら法的に禁止されていない。

(六) およそ市民社会を構成する事業は、どのようなものであっても一定の社会性や公益性を有する。法三四八条二項は、学校教育法の規定にかかわらず、市町村が固定資産を非課税対象とすることができる教育施設を、法人立の学校と専修学校に限定している。被告市長は、地方税法において非課税の対象としなかった教育施設のうち、個人が設置する幼稚園のみを公益性があるとして、減免の措置を行ったものであり、この措置は、法人立幼稚園のような法規制のない個人立幼稚園を他の非課税措置の対象とされない教育施設に比して不合理に優遇するものであって、憲法一四条に反するものというべきである。

4  被告市川の故意又は過失

原告朝木明代は、東村山市議会議員として、昭和六三年三月一〇日及び平成二年三月一九日の同市議会本会議の質疑において、被告市長に対し、本件固定資産税等の減免が不適法であるとの前提の下に、本件免除を見直すよう求め、更に、平成三年一一月一九日付質問書により、被告市長に対し、右免除が法三条、三六七条に違反していることを指摘し、是正措置を求めたが、被告市長は、減免措置が適正になされていると考える旨を回答した。したがって、被告市川は、本件固定資産税等を賦課しないことが違法、又は違法となりうることを知りえたものであるから、右賦課しなかったことにつき、故意又は過失がある。

5  損害の発生

本件固定資産税等の合計額は一六六二万七〇〇〇円である。被告市長が違法に本件固定資産税等を賦課しなかったことにより、その徴収権は、平成三年四月三〇日の経過によって時効により消滅し、東村山市は、右金額と同額の損害を被った。

6  監査請求

原告らは、平成四年四月三日東村山市監査委員に対し、被告市長が本件固定資産税等を賦課しなかった事実について監査請求をしたところ、同監査委員は、右監査請求を理由がないとして棄却し、同年五月三〇日付で原告らに対し右監査結果を通知した。

7  よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項二号に基づき、被告市長が別紙記載の各納税義務者に対し、本件固定資産税等について、その全額を免除し、かつ、それを平成三年四月三〇日までに賦課徴収しなかったことが違法であることの確認を求めるとともに、同条同項四号に基づき、東村山市に代位して、被告市川に対し、本件固定資産税等の合計額に相当する損害金一六六二万七〇〇〇円及びこれに対する本件固定資産税等の徴収権が時効により消滅した後であり、かつ本件訴状送達の日の翌日である平成四年九月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を東村山市に支払うよう求める。

二  請求原因事実に対する被告らの認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3(一)の主張は争う。法三六七条の「その他特別の事情がある者」には、公益上の理由のある者が含まれると解すべきである。

3  同3(二)の主張は争う。

4  同3(三)の主張は争う。

5 同3(四)の事実中、被告市長が本件免除を決定するについて、その各所有者の担税力を全く審査しなかったことは認め、その余の事実は知らない。主張は争う。

6 同3(五)の事実は否認し、主張は争う。市税条例五三条一項二号にいう「公益」とは、広く社会一般の利益をいい、個人立幼稚園は、学校教育法一条の学校に含まれ、幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とするものであるから(同法七七条)、法人立の幼稚園と同様に幼児の初期教育を担って社会一般の利益を増進させるものとして、公益性を有する。個人立幼稚園が、幼児の初期教育において現実に果たしている公共的役割やその社会的機能を無視することはできず、この社会的事実を考慮に入れるならば、本件土地建物に係る個人立幼稚園の本来の活動は「公益」に該当するというべきである。更に、何が「公益」に該当するかは、被告市長が、その委ねられた高度に政策的・技術的・総合的な見地からする判断によって行うべきものであり、その判断は、一見明白に著しく合理性に欠けるものでない限り、十分に尊重されるべきであって、被告市長の本件免除が合理性に欠けるものでないことは明らかである。

なお、右条例の規定にいう「直接専用する」とは、幼稚園の施設及びその敷地であって、それらが主として幼稚園の設置目的にそって利用されていれば、これを満たすものと解される。本件免除の対象となった幼稚園は、各種の「おけいこごと教室」等を直接又は委託して実施しているが、それは時間的・場所的に幼稚園の障害とならない範囲でなされているし、また、その対象者も在園児かその卒業生の幼児らであるから、このような事実があるからといって、「直接専用する」との要件が満たされなくなるものではない。学校法人は、その設置する私立学校の教育に支障のない限り、その収益を私立学校の教育に充てるため、収益を目的とする事業を行なうことができる(私立学校法二六条一項)から、収益事業が直ちに学校の設置目的に反することにはならない。

6  同3(六)の事実中個人立幼稚園について、法人立幼稚園のような法規制がないとの点は争う。個人立幼稚園も、私立学校法附則一八条により所轄庁の監督を受けることになっており、法的規制がないわけではない。その余の主張は争う。

7  同4の事実中、被告市川に故意または過失があるとする点を除くその余の事実を認め、次の点は争う。

8  同5は争う。本件免除が違法であるとされるときは、被告市長は右の決定を取り消すことになり、そうすると本件固定資産税等の徴収が可能となるので、東村山市に損害は発生しない。

9  同6の事実は認める。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の各事実、同3(四)の事実中、被告市長が本件免除を決定するについて、その各所有者の担税力を全く審査しなかったこと、同4の事実中、原告朝木明代が東村山市議会議員として、昭和六三年三月一〇日及び平成二年三月一九日の同市議会本会議の質疑において、被告市長に対し、本件免除が不適法であるとして、これを見直すよう求めたこと、同原告が平成三年一一月一九日付質問書により、被告市長に対し、右免除が法三条、三六七条に違反しているとして、是正措置を求めたが、被告市長は、減免措置が適正になされていると考える旨を回答したこと及び同6の各事実は当事者間に争いがない。

二  固定資産税を、これに係る納税義務者の担税力を考慮せず、公益性を理由に減免することができる旨の条例を法三六七条に基づいて制定することの可否について

1  法三六七条は、条例の定めによって固定資産税を減免することのできる者として、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者」及び「貧困に困り生活のため公私の扶助を受ける者」を規定したうえ、「その他特別の事情がある者」をあげる。前二者は、固定資産税を負担する経済的能力が一時的に或いは相当期間欠けると認められるような個別的な事情のある者に対する減免を認めるものであるが、後者は、単にその他特別の事情のある者とのみ規定していて、その特別の事情が、前二者におけるような担税力の有無の観点からの個別的なものであるべきことまで規定している訳ではないし、前二者が右のような趣旨の規定であるからといって、後者も当然同様の趣旨に出る規定であると解すべきであるともいうことはできない。そうすると、公益性のある用途で使用している固定資産に係る納税義務者について、その用途の如何によりこれを一律に「特別の事情のある者」と認める条例を制定しても、これをもって右規定に反するものということはできない。

2  法三四八条一項は、固定資産税を課することができない者を、同条二項は、これを課することができない固定資産の種類又は用途を、それぞれ具体的に規定しているが、これは、法が、立法政策として、このような者或いはこのような種類又は用途の固定資産については一般的に固定資産税を賦課しないこととして、その旨の規定をおいたものに過ぎず、このような規定があるからといって、地方公共団体が、条例により、右に規定する場合以外の種類又は用途の固定資産について、それが一定の公益性を有する用途に供されていることを理由として、その独自の政策に基づき、個々の納税義務者の申請をまって、これに係る固定資産税を減免するものとすることを、法が禁止しているとは解することができず、かえって、法六条は、地方公共団体が、このような施策を行うことを積極的に許容しているものと解されるのである。

3  原告らは、固定資産税が財産税であるから、法の認める場合以外には不均一課税が許されないと主張するが、同税が固定資産に係る税であるからこそ、一定の公益性のある用途に供されている固定資産について、その用途に係る事業の援助ないし勧奨などの行政目的達成のためこれに係る固定資産税を減免することが可能となるのであり、原告らの主張は、独自の見解に基づくもので到底採用できるものではない。

4  以上のとおり、固定資産税をこれに係る納税義務者の担税力を考慮せず、公益性を理由に減免することができる旨の条例を法三六七条に基づいて制定することは適法と解されるから、その趣旨に出た市税条例五三条一項二号(以下「本件規定」ということがある。)をもって、法六条一項、三六七条に反するものとはいえない(なお、都市計画税については、法七〇二条の七、市税条例一二四条により、その賦課徴収は、固定資産税の賦課徴収の例によるものとされている。以下同じ。)

二  市税条例が、公益性の判断を市長に委任していることの可否について

市議会が、特定の固定資産の用途につき、これを固定資産税減免の対象とする公益性のあるものとするかどうかの判断を予め行って、これを市税条例に明記することはもちろん可能であるが、公益性のある用途には種々のものがあり得るし、時の経過により公益性の有無の判断も変化していくこと等を考慮して、その決定をその都度の市長の判断に委ねる条例を制定することも、公益性のあることという枠内における委任であるし、議会は、長に対し、地方自治法に定められた様々な監督手段を行使し得るから、全くの白紙委任という訳ではなく、充分合理性のあることというべきである。法三条一項や、法三四八条は、何ら条例にこのような委任規定を設けることの障害となるものではなく、本件規定は、この面からしても、法に反するものとはいえない。

三  市税条例の違法性に関するその他の原告らの主張について

原告らは、条例において、公益性の内容が具体的に定められていなければならないとか、減免の対象となる者の担税力が薄弱であることを審査する手続が条例上設けられていなければならないとかの主張をするが、右二のとおり、公益性のある用途の決定を市長に委任する条例は適法であり、右一のとおり、固定資産の所有者について、その担税力を考慮せず、用途の公益性のみに着目して固定資産税減免の対象とするものとしても、法の趣旨に違反するものとはいえないから、条例において、右の主張のような規定を定めなければ、本件規定が法に違反するものとなるとはいえない。よって、右主張も、採用することができない。

四  本件規定を固定資産の所有者の担税力を考慮せずに適用することの可否について

本件規定は、公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)のうち市長が必要と認めるものについて、その所有者に係る固定資産税を減免するとのみ規定していて、減免するについてその所有者の担税力を考慮することを何ら要求していない。そして、このように、公益性のある固定資産につき、その所有者の担税力を考慮せずに固定資産税を減免することとしても、法の規定に反するものでないことは、右一において判示したとおりである。

そうすると、本件規定は、その所有者の担税力が薄弱である場合に限って適用すべきものとはいえないから、被告市長がその点について調査せずに固定資産税の減免を決定しても、本件規定に反するとはいえず、本件各固定資産の所有者らが現に担税力を有するかどうかは、被告市長の本件免除の適法性に影響を及ぼすものではない。これらの点に関する原告らの主張は、それ自体失当であって、採用する余地はない。

五  本件固定資産の本件規定該当性及びその審査について

1  原告らは、被告市長が、本件固定資産に係る減免申請について、申請者の使用実態や専用の直接性等について何ら調査や審査を行わなかったと主張するが、成立に争いのない甲第一号証及び弁論の全趣旨によっても、被告市長は、本件固定資産についての減免を決定するについて、そこにおいて行われている幼稚園事業の実態についてある程度の調査や審査を行っているものと認められるのであって、右の原告ら主張事実を認めるべき証拠はない。

2  本件規定の下において、市長が、どのような事業を公益性のあるものと認めるか、その事業に供されている固定資産のうちどの部分を直接専用するものと認めるか及び本件規定の要件に該当するもののうちいずれを必要なものと認めるかは、固定資産税の減免という手段によって達成しようとする行政目的の下において行使される市長の裁量権に委ねられているものと解されるから、その裁量権の行使に逸脱又は濫用があったと認められるときに限り、これを違法とすることができるものというべきである。本件固定資産において営まれている、学校法人の経営に係るものではない、いわゆる個人立の幼稚園は、学校教育法一条に規定する学校であって(同法一〇二条一項参照)、幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的としており、監督庁である都道府県知事によって、教育内容に関する事項が定められているものであり(同法七七条)、幼児の初期教育を担って社会一般の利益を増進させるものとして、優に公共性を肯定できるものというべきであり、別紙記載の各個人立幼稚園も、右の法令の規定に従って運営され、右の社会的使命を遂行しているものであることについては、原告らもこれを明らかに争わないところである。そうであるとすれば、被告市長が、個人立幼稚園の用に供されている固定資産を一律に市税条例五三条一項二号の公益のため直接専用する固定資産であって、その所有者に対して課する固定資産税を減免する必要があるものと認めたとしても、何らその裁量権を逸脱し或は濫用したこととはならないものというべきであり、別紙記載の各個人立幼稚園について、いずれも右の減免の対象となる個人立幼稚園に当たるものとした被告市長の認定判断にも相当性を欠く点を見出すことはできないのである。

3  右各幼稚園においては、その施設を利用して、ピアノ教室や体操教室等の各種の「おけいこごと教室」が運営されていることは、被告らの明らかに争わないところであるが、学校法人であっても、その設置する私立学校の教育に支障のない限り、その収益を私立学校の経営に充てるため、収益を目的とする事業を営むことができるのであり(私立学校法二六条一項)、個人立幼稚園の施設といえどもこれを本来の保育又は教育に支障のない範囲で収益を目的とする事業に供することが、その公益性を損なう事由に当たるとか、公益のため直接専用するという性質を失わせる事由に当たるとかすることはできない。別紙記載の各個人立幼稚園が行っている事業は、〔証拠略〕によれば、絵画教室、オルガン教室、バレー教室、剣道教室、体操教室、サッカー教室、書道教室、音楽教室、英語教室などであって、いずれも、地域の児童や一般人の課外教育や訓練等の一助となるものであって、単に収益のみを目的とするものではないし、これらが、幼稚園の保育又は教育に支障となる態様で実施されているようなことを認めるべき証拠はないから、これらの収益事業が行われていることがあるからといって、右各幼稚園の用に供されている施設の公益性が失われるとか、その施設の公益のための直接専用性が失われるとかいうことはできず、被告市長のした本件減免を裁量権を逸脱し或いは濫用してされたものと認めることはできない。

4  原告らは、個人立幼稚園の場合には、収益事業によって得られた収益が、その経営者の個人的な所得になることについて法的な規制がない旨の主張をするが、仮にその収益が、幼稚園の経営に充てられないことがあったとしても、その収益事業が幼稚園における保育又は教育に支障を及ぼさない限り、なお、当該幼稚園の公益性は失われるものではないというべきである。

5  原告らは、本件固定資産の所有者らがいずれも被告市川の後援者であるため、被告市長は、これらの者を優遇するために本件免除を行ったとの趣旨の主張をもしているもののようであるが、本件免除は、市税条例の規定に従い個人立幼稚園が公益性のあることを理由に行われたものであることは前認定のとおりであって、原告主張のような事実を認めることのできる証拠は見出し難いのである。

六  本件免除が憲法一四条に違反するとの主張について

本件免除は、以上に判断したように、市議会が、その法によって与えられた責務に基づき制定した条例の規定を市長が正しく運用して行ったものであり、法や条例に何ら憲法一四条に反する不合理な点が見出せない以上、本件免除が憲法一四条に反することとなる余地はない。

第三 結論

以上によれば、本件固定資産について、被告市長が本件固定資産税等を減免したことに違法とすべき点はないから、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

よって、原告らの本訴請求を棄却することとし(なお、請求の趣旨1項の訴えのうち、本件固定資産税等の免除の違法であることの確認を求める分は、それだけを取り出せば、地方自治法二四二条の二第一項二号の訴えの定型に当たらない不適法なものというべきであるが、この部分は、請求の趣旨1項の訴えを全体としてみれば、右税の賦課徴収をしなかったことの違法の確認の訴えに含まれるに過ぎないものとみることができるから、特にこれを却下する主文は掲げない。)、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮春彦 武田美和子)

(別紙)〔略〕

参照条文

◆東村山市税条例(昭和二五年条例第四号)

第五十三条 市長は、次の各号の一に該当する固定資産のうち、市長において必要があると認めるものについては、その所有者に対して課する固定資産税を減免する。

一 貧困により生活のため、公私の扶助を受ける者の所有する固定資産

二 公益のため直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)

三 市の全部又は一部にわたる災害又は天候の不順により著しく価値を減じた固定資産

四 保険医が自己の資産で直接使用する診療施設の固定資産については、二分の一の額を軽減する。

2 前項の規定によって固定資産税の減免を受けようとする者は、納期限前七日までに、次に掲げる事項を記載した申請書にその減免を受けようとする事由を証明する書類を添付して、市長に提出しなければならない。

一 納税義務者の住所及び氏名又は名称

二 土地にあっては、その所在、地番、地目、地積及び価格

三 家屋にあっては、その所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び価格

四 減免を受けようとする事由及び第一項第三号の固定資産にあっては、その被害の状況

3 第一項の規定によって固定資産税の減免を受けた者は、その事由が消滅した場合においては、直ちにその旨を市長に申告しなければならない。

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